素敵なバレンタイン・プレゼント

キャンディ・ダルファーとの楽しい取材を終え、出社した私を机の上で待っていたのは、見覚えのないアメリカの弁護士からの10頁のファックス。
ちらっと一瞥しただけで「残念な週の始まり」を予感させるものでした。
読み込む前にファックスのコピーを関係者に渡し、通常のリエゾン業務を終えた頃、関係者が私の机の周りに集まって来ました。
まだファックスをしっかり読んでいなかったので、ファックスを読みながらの対策会議になったのですが、そこで面白いことに気付きました。

大好きな内田樹センセイの『邪悪なものの鎮め方』を結局一気に読んでしまい寂しくなった私は、まだ読んでいなかった『日本辺境論』を現在ちびちび読んでいます。
(今度こそ、ちびちび行くぞ〜と心に誓いつつ……笑)
そこで仕入れたばかりの情報が目の前で現実になったのが件の対策会議。

ファックスの内容自体はほぼ言い掛かりに近いもので、弁護士を使って大掛かりな「警告」を行なっているという程度のもの。
“太ったのはオマエのせいだ!”とか“コーヒーが熱くて火傷した”とファストフード店を訴えたり、“舗装されている道に穴が開いたせいで転んでケガをしたから賠償せよ!”と役所を訴える人がいるようなアメリカという国に限ってはありがちなことです。
今回届いたファックスもレベル的には同じようなこと。

でー、関係者の対策は……
1)他社にも同じファックスが届いていたら、彼らと足並みを揃えた対応をする
2)ウチにだけ届いている場合には法務部に対応を指示してもらう
3)相手と連絡を取り合う必要性が生じたら顧問弁護士を通して行なう
……という日本人の感覚では(たぶん)常識的なものになりました。

がー、ここで驚いたのは事務方の担当者が当たり前のように言い放った以下の言葉です。
「顧問弁護士に相談するとお金がかかるからなぁ……」
経費節減のおり、確かに余計なことにお金はかけたくないというのは理解できますが、これって必要経費じゃないの?
こういう時こそ顧問弁護士さんに活躍してもらうべきじゃないの?
法務部は日本の法律には精通しているでしょうが、アメリカの法律もちゃんと調べて適切な対処をしてくれるの?
更に「足並みを揃えた対応」がもし「相手と一戦交える」だったらどうするの?

以前読んだ山本七平の『「空気」の研究』からの一説が『日本辺境論』にも記載してあったのですが、まさしく「その場の空気で重大な物事が決断される」ことを“決める現場”に遭遇した気分です。
内心「うわ〜、日本人って本当にそうなんだ」と実感した次第(苦笑)。
自らが対峙しなければいけない問題の解決策を他者に委ねることを躊躇しないし、他者が出した解決策が自分の考えと違っていたとしても、解決策が失敗に終わった場合に「そういう流れになったので仕方ない」と責任回避できる道筋が目の前で出来上がったわけですよ。
私としては(小さな案件ですが)もの凄い決定経過に遭遇した感覚で、軽く感動すら覚えました。

「長いものに巻かれる」方がこの国では生き易いですし、普段の私も巻かれるように努力しています。
でも、この「長いもの」はどの段階でも既成事実なわけで(だからこそ大多数が納得する)、その先に起こり得ることを計算に入れていないわけです。
縦しんば関係者が事前に起こり得ることを複数予測していたとしても、たとえ予測の範疇外の結果となっても責任者が「空気」や「既成事実」なわけで、原因もそこに至った経緯も明確になり得ない。
いやー、なんか、もの凄い伝統的なシステムですわ、これ。
そんなもの凄い思考システムと決定システムの伝統を持った国に生まれて喜ぶべきか、悲しむべきか、悩ましいところです。
まっ、でも、辺境特性を逆手に取って「日出づる処の天子、書を日没する処の天子に致す」で始まる国書を遣隋使に持たせた聖徳太子がいた国なので、伝統的な思考・決定システムに狸オヤジ性が加われば鬼に金棒かも(笑)。



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